所在地 : 東京都品川区
用途 : 住宅
竣工 : 2009年3月
規模 : 地上3階
施工 : 加賀屋工務店+創朋建設
写真 : Yoshinori Kuwahara
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春の季語で、冬の間締め切っていた北側の窓を思い切って開けて、春の訪れを風や光の取り入れと共に感じる、という意味である。
敷地は、住宅と町工場が混在する都内の密集市街地の中にある。
約18坪の狭小敷地で、庭も作れないほど密集した都内の典型的な立地条件であり、周囲には、同じような状況下に詰め建てられた、閉め切ったカーテンのある小さな窓が設けられた閉鎖的な住宅が立ち並んでいる。
当敷地は、南側は隣地建物が建ち迫り、北側だけは大きな駐車場があり視界が開けている。
あまり良いとは言えない採光条件の中、周囲の住宅のような閉鎖的な空間ではなく、プライバシーを守りつつ、効率的に採光をとり、且つ開放的な内部空間となる窓をとることにした。季節の移ろいを感じられる、伸びやかな窓。
2・3階に設けたLDKと子供部屋はとても明るくして欲しいという施主の要望から、視界が開けている北側を吹き抜けとし、通常はテラスへの掃きだし窓として使われる大きめのワイドサッシを吹き抜けの二層にまたがるような「腰窓」として設けた。それにより、吹き抜けを介して上階の子供部屋への採光もとれる上、外を歩いている人からの視線を遮ることができる。また、開口を二層にまたがる縦長の大きな片引き窓にすることにより、室内の意識が自然と上方へ向かい、カーテンを閉めずとも外からの視線を気にせずに、常に空を感じられる開放的なリビングとなっている。
一方、個室の多い1階の窓はプライバシーを守る為すべてハイサイドとし、道路側の窓には、FRP製グレーチングを設置している。防犯上の機能だけでなく、翡翠色の帯が小豆色の外観の補色としてアクセントとなっている。
古来日本の住宅では、北側の窓は裏側としての扱いが多い。
しかし、寺社建築に見られる鑑賞用の庭とは意図的に建物の北側に作られることが多く、実際、南側の窓より北側の窓から見る景色のほうが綺麗に見えると言われてる。南側から日は差し、木々や草花はその方向に向かって成長するため、北側の窓からは、木々の生長している表側の顔を正面に鑑賞することができるのである。
北窓には、季節の移り変わりを日々の生活の中で感じてもらいたい、そんな思いが込められている。